PCR陽性者の同居家族として、親子で「濃厚接触者」となったAさん。夫の体調不良が始まる2日前に一緒に食事をしていた親族も、濃厚接触者となりました。職場の人は、対象となりませんでした。
夫の感染判明から3日目に保健所でPCR検査を受け、結果はAさん親子も対象となった親族も、「陰性」。しかし濃厚接触者は症状が出なくても、新型コロナ感染が判明した人と最終接触した日から14日間は、外出自粛と経過観察が求められます。Aさん達は、夫がホテル療養を始めた日の翌日から、14日間の自宅待機が決定しました。
Aさんいわく、濃厚接触者は外出ができず待つ時間が長い分、考えることも増えて、緊張感・憂鬱感で精神的に本当につらかったそうです。
- 夫の安否と将来の不安
- 自分と子どもの発症に怯える日々
- 後遺症の恐怖
- その他濃厚接触者への申し訳なさ
- ご近所さんへの対応
- 職場など関係先への自責感
- 孤独感 etc.
AさんたちがPCR検査結果を待っている頃、夫の病状は悪化。肺炎症状で病院への入院が決まったことも、Aさんを精神的に追い詰めました。病状が悪化した本人とのやり取りはスムーズにいかなくなり、不安は増すばかり。
さらに、小さな子どもと2人きりで外出できずに暮らすストレスは、想像に難くありません。自家用車でのドライブ等の気分転換にも、限界があります。
そこで、Aさんは自宅待機の約2週間、2回ほど「コロナに関する心のケア相談専用ダイヤル」に電話をかけたそうです。保健所から配布された資料の中に、感染者の家族等を対象にした相談窓口の情報が記載されていました。
電話で親身に話を聞いてもらえたことで、ギリギリの精神状態を保つことができたとAさん。心配の種だった夫の病状についても、保健所に問い合わせれば教えてもらえるよう口添えをしてくれたりして、助かったそうです。
濃厚接触者は日用品の買い物など、必要最低限の外出は感染症対策をして密を避ければ可能とされていますが、Aさんの外出自粛生活は幼い子どもと2人きり。夜間の買い物が難しく、親子で無症状だからこそ、緊張感で外出できなかったそう。
そんなAさんが自宅待機の期間中に一番困ったのは、卵や牛乳、野菜や食肉など賞味期限の短い「生鮮食品」が入手しずらかったことでした。
※編集部注:イオン佐賀大和店のネットスーパーは佐賀県全域が対象です。
子どものオムツや消毒用品などの日用品や、常温管理できる乾物やジュース類、ベビーフード等は、一般的な通販サービスで購入できます。
新型コロナウイルス感染は、その多くが「ある日突然に」です。災害対策のように、普段から意識できることとして、備蓄を考えながらお買い物や調理をしておく「ローリングストック」を心がけておくのも、一つのアイデアかもしれません。
自宅での2週間、時にはピザなどの出前サービスを利用することもあったという、Aさん。友人らからの差し入れにも、元気をもらっていたそうです。
新型コロナウイルス感染が発覚してから数日後に肺炎となり入院したAさんの夫は、治療の甲斐あって、順調に回復。
Aさん親子の自宅待機14日間が終わる前に帰宅し、夫のみ、元の生活が始まりました。
病院から退院すると、PCR陽性者は後遺症が多少残っていても、行動制限はなくなります。PCR陽性者が日常生活に戻る最短の日数は、おおまかに以下の通りです。
医師の判断に基づき、
- 人工呼吸器等による治療を行わなかった場合、発症日から10 日間経過し、かつ、症状軽快後72 時間経過した場合など
- 人工呼吸器等による治療を行った場合、発症日から15 日間経過し、かつ、症状軽快後72 時間経過した場合など
- 無症状の病原体保有者(PCR陽性)の場合、発症日から10 日間経過した場合など
厚生労働省QAより
なぜ、PCR陽性者が先に、早く自粛が解かれることになるのか?
厚生労働省によると、発熱等の症状が出てから7日~10日程度経つと、新型コロナウイルス感染者の感染性は急激に低下し、PCRで検出される場合でも感染性は極めて低いことが分かってきたのだそう。
感染した本人が先に日常生活に戻っても、PCR陰性の濃厚接触者は自宅待機が求められるため、注意が必要です。新型コロナウイルスの潜伏期間は、最大14日間と言われています。
佐賀県東部は、回覧板や町内活動が日常的なエリアでもあります。そのため、外出自粛期間中のご近所付き合いをどうするか悩む人も多いはず。
Aさん一家の場合は、外出自粛期間中の回覧板のやりとりや町内活動は、体調不良を理由に断り、特に詮索はされなかったそう。また、その後、避けられたり陰口が聞こえてきたり、という特別嫌な思いは、Aさん自身はこれまで体験していないと言います。
ちなみに。家庭内に陽性者がいなかったPCR陰性の濃厚接触者Bさんは、付き合いのあるご近所さんに「PCR結果を待っている状況」「念のため外出自粛中」と正直に事情を伝えたことが、かえってお互いに疑心暗鬼にならず気遣い合えたという実感を教えてくれました。
地域の特性・文化などもあり、ご近所付き合いに正解はありません。
新型コロナウイルスに感染された⽅やその家族の詮索や誹謗中傷、不当な差別や偏⾒・いじめなど、⼼無い⾏為で困ったときは⼀⼈で悩まず、専用窓口に相談してみましょう。
みんなの人権(法務局)
人権啓発センターさが
幼い子どもの新型コロナウイルス感染の背景には、家庭内感染の増加があると言われていますが、Aさん一家は、家庭内感染に至らなかった珍しいケースとも言えます。
Aさんたちは、普段から「体調不良になったら、家族とは食事時間や寝る場所を変える」という生活をしていました。感染した夫に咳が出る初期症状がなかったことも、不幸中の幸いだったかもしれません。
また、Aさん一家は、仕事柄、イベント参加や県境を越える外出はできる限り控えていたと言います。外出時や職場では必ずマスクを着用し、手指の消毒にも積極的でした。さらに、発症したAさんの夫の仕事関係者の中に、新型コロナ感染が判明した人は他にいません。
このように、普段から感染対策をしていても、小さな隙間から新型コロナウイルスは日常生活に入り込んできます。
「外出自粛中は、精神的に病んでいたと思います」と、今は笑顔で2週間の経験を振り返ってくれたAさん。
結果的に軽症だったAさんの夫は、退院から1週間ほど軽い後遺症と体力低下に悩まされましたが、現在は落ち着きを取り戻しています。