新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて、大字基山では佐賀県東部の地域医療を担う総合病院「やよいがおか鹿毛病院」の協力のもと、私たちにとって身近な医療現場の声を聞いてきました。
呼吸器外科が専門の、やよいがおか鹿毛病院の医師・岩田輝男先生は発熱外来を担当するとともに、病院独自の感染症対策チームの責任者でもあります。
今、私たちに必要なことは「新型コロナウイルスを正しく恐れること」と、岩田先生。
岩田先生
「経済が止まると、医療物資の生産や物流にも影響が出ます。自粛から経済活動の再開に向けて、新型コロナに対する理解が広がることが大切です」
そして、日常の延長にある医療機関として、これからも一般病院の外来や救急が機能し続けるためには、「感染者を増やさない行動」「患者への思いやり」「医療従事者への理解」が大切です。
感染者を増やさないために私たちができることは、一人一人が無自覚の感染者である前提で、不要不急の外出をしないこと。週末や長期休暇に、旅行や観光、帰省も控えるようにと呼びかけられています。
厚生労働省が発表したポイントに共通することは、「人と人との間隔をあけること」。
物理的に離れることは、ソーシャル・ディスタンスやフィジカル・ディスタンスとも言われています。今まで以上に、各家庭で感染症対策に取り組みながら、周囲環境への配慮も求められています。
地域で新型コロナウイルス陽性患者が報道されると、犯人探しのようになってしまいがち。
ウイルスへの恐怖心から地元では真偽不明の噂が飛び交い、インターネット上で患者が人格攻撃を受けるなど、その傾向は残念ながら田舎でも都心部でも変わりません。
すると、風邪症状が出た人の中には例えば…
- 「村八分」を恐れて、体調が悪くても外出や出勤を続ける
- 持病があるのに、病院通いを控える
- 悲観して、自暴自棄になる
その行動が、周囲や医療現場に与える影響を考えてみたこと、ありますか?
一般的な風邪と同じく、新型コロナウイルスには誰もが感染するリスク、誰かを感染させるリスクがあります。
新型コロナウイルスに感染した人を責めたり差別する周囲の反応が、「感染を隠す」行動につながります。
岩田先生
「ウイルス憎んで、患者さんを憎まず!」
パンデミック下でこそ、これ以上感染を拡大させないという目的の元、患者への思いやりと支え合いの気持ちが大切です。
何より、新型コロナウイルス感染症と最前線で向き合っている場所は「病院」です。
病院は医師や看護師以外にも、多くの事務員やスタッフで成立している組織。新型コロナウイルスが猛威を振るえば振るうほど、医療スタッフや職員は休む暇もなく、疲弊していきます。
岩田先生
「医療現場のモチベーションを保つために、地域の皆さんの理解は欠かせません」
「医療関係者だからと、保育所に子どもの受け入れを断られたという当院スタッフもいます」
医療現場は、感染症指定病院であれ一般病院であれ、小さな診療所でも、緊張感を持って目の前の患者と向き合っています。そして自分や家族を守るため、通常の感染症対策以上に、細やかな配慮をしているスタッフもいることでしょう。
新型コロナウイルスを押さえ込むために、最前線の病院こそが、衛生的に安全である努力を懸命に続けています。
そんな病院の事情を知ろうとしない地域住民の不安や思い込みが、噂話や尾ひれがついたデマに発展します。噂話やデマは、悪意なく、現場で努力している人を傷つけます。
不安なことがあれば、専門窓口に相談しましょう。プロである医療従事者を信頼しましょう。分からないことがあれば、専門家や行政が発信していることに、耳を傾けましょう。
そして、病院で診察を受けたら、関係者と道ですれ違ったら、「ありがとう」を伝えましょう。地域の「ウイルスを理解する」という姿勢と行動が、私たちの健康を守ってくれる地域医療の支援につながります。
世界各地で、新型コロナウイルスと戦う医療関係者のストレスフルな環境が報道されていますが、地域の一般病院ではパンデミックと向き合う前に、「無理解」との戦いが始まっているのです。
取材・文章:江藤裕子