新型コロナウイルス変異株による流行が、これまでの傾向と異なるのは、「10代以下」「10代」の感染者も出てきていること。
佐賀県基山町は、2021年9月時点でワクチン接種率が9割を超えている高齢者を中心に感染が抑えられている反面、7月下旬以降、小中学生、保育園児等をはじめ、若年層の町民に多数の新規陽性者が報告されているんだそう。
感染拡大によって、新型コロナウイルス感染者だけでなく、その「濃厚接触者」として生活を送る経験をする人も増えつつあります。
発症に至らずとも、PCR陰性で無症状の「濃厚接触者」になった場合、私たちはどのような体験をすることになるのでしょうか。
大字基山編集部は、実際に感染者の家族として「濃厚接触者」の生活を経験した方に、当時のお話をうかがうことができました。佐賀県東部での事例の一つとして、家族で新型コロナウイルスに備える・話し合うきっかけになれば、と匿名を条件にご協力いただいています。
※2022年1月19日追記:濃厚接触者の待機期間は、これまでの14日間から10日間に短縮されています。
2021年夏に「濃厚接触者」になる経験をしたというAさんは、佐賀県東部で夫と未就学児のお子さんと暮らす働く母。近所に親族はいません。Aさん自身は、職域接種を利用してワクチン接種1回目を終え、2回目を翌週に控えているタイミングでした。
きっかけは、夫の体調不良。2日間ほど頭痛などの不調を訴えていた夫に、夏風邪を想定してクリニックの受診を勧めました。Aさん自身も働いていること、お子さんが保育所に通っていること、そして週末に予定があったため不安を感じたまま外出はできない…と考えたのだそう。
Aさんの仕事が早く終わった平日の夕方、事前にかかりつけのクリニックに電話し、Aさんが運転する自家用車で向かいました。
軽度の風邪症状でしたが、受診時に微熱があったため、クリニックの医師の判断で「抗原検査」を行なったところ、まさかの「陽性」。検査からおよそ15分ほどで、結果が出ました。
Aさんの夫は、新型コロナウイルスの代表的な症状とされる「咳」「味覚・嗅覚症状」が、一切なかったそうです。季節の変わり目に感じやすい不調にも似ていたそうで、「週末に予定があったから」用心して、早めに受診したことが早期診断につながったのかもしれません。
クリニックから保健所へ連絡し、新型コロナウイルス感染者となった夫は翌日からホテル療養が決定したそう。夫と、Aさんお子さんは、可能な限りお互いを隔離する形で一夜を過ごしました。
考えてもいなかった夫の新型コロナウイルス感染発覚に、ショックを隠せないAさん。当日は病院からそのまま自宅に戻り、「これから始まる生活の準備を整える心の余裕はなかった」と言います。この日から、「人に会うのが怖い」と思い始めるようになりました。
簡易の抗原検査の結果とはいえ、家族の「陽性」が判明。保健所からの指導のもと、夫の仕事先、Aさんの仕事先、そしてお子さんの保育所にもその日のうちに、電話で報告。翌日から、職場の欠勤、保育所の出席停止が決まりました。
自分たちで電話して感染報告することを初めて知り、戸惑い、緊張したというAさん。幸いにも理解のある職場で、その後は仲の良い同僚らが自宅待機するAさん親子に食事の差し入れをしてくれるなど、大いに助けてもらえたそうです。
保健所は個人情報保護の観点から、行政側に感染者の氏名や連絡先を提供することはありません。また、家族の新型コロナウイルス感染によって日常生活が困難な状況になっても、多くの自治体で支援の手が自動的に差し伸べられる制度は整っていません。頼れるのは、遠くの親族より近くの友人・知人です。
近所に親族がいない場合、万が一に備えて、近所の信頼できる友人同士で助け合う約束をしておくと、その後の安心感につながるかもしれません。困った時は専用の窓口や、行政の窓口へ自ら相談する心づもりでいた方が良さそうです。
翌日、指定された時間帯に、Aさんが運転する自家用車で保健所へ。
抗原検査で「陽性」となり風邪症状があった夫は、保健所でPCR検査を受けた後、同じく感染が確認された方と一緒に別の車両で療養先のホテルへ移動しました。
この日以降、Aさんと夫はLINEでの連絡を取り合うように。実は、ここから急激に症状が悪化し、電話での会話が厳しくなっていったのです。夫本人から聞く以外に、保健所や病院などからAさんに夫の病状が伝えられることはなく、精神的に辛い日々が始まりました。
次ページに続く。