11月15日の水曜日、夕刻。
基山フューチャーセンターラボで情報公開から、たった一週間で定員に達してしまったという注目の講演会「まちゼミ」が開かれました。
講演者は、木楽舎のソーシャル&エコマガジン「ソトコト」の編集長、指出一正さん。雑誌の編集を通して日本全国の地域活動の見聞を深め、ご自身も複数の地域活性プロジェクトに関わっています。
満員御礼の今回のまちゼミのテーマは、「『あたらしい地方』を編集し、発信するソーシャルな視点」。
集まった参加者の多くがペンとメモを手に真剣な表情で耳を傾ける中、ラジオ番組のパーソナリティもされているという指出さんは、ソフトでゆったりとした優しい語り口。ご自身の体験談も交えながら、地域活性プロジェクトの事例を紹介、解説してくださいました。
月刊「ソトコト」は創刊19年。指出さんは13年前に編集部入りされてから、東日本大震災のあった2011年3月、編集長に就任されたそう。
それまでのソトコトは、エコやロハス文化について取り上げる自然派の月刊誌でしたが、指出さんは被災地に足を運ぶ若者たちの姿を日本社会の岐路と捉えて、編集方針をソーシャルやローカル、福祉をテーマにする方向に舵を切ったんだとか。
全国各地、さまざまな形の地域プロジェクトを取材してきた指出さんのお話で、個人的に印象に残ったフレーズをご紹介します。
「小さなものをミクロの視点で見ると、解像度が上がって美しいし、面白い。それを僕は大事にしようとしています」
「横向きな視点は、隣の真似。前向きな視点はターゲット(○○が好きな20代女子とか…)を決めてしまうこと。地域の魅力発信は、中の人が内向きの視点で、面白がりながら発信することが大切」
「ソトコトでは、トレンドを追うのではなく、定点観察を大事にしている。地域のうつろいを報道していきたい」
「地域おこし、地域のデザインを経て、地域の魅力は全て出し尽くした!これからは地域の情報を”編集”する術が求められています」
「若い人や移住者が見つけた地域の”新しいこと”をそれは昔からあるから…なんて言ったらダメですよ。昔から〜、はNGワード。同じ町でも時代が違えば視点も違う。それは発見です」
…地域プロジェクトに少なからず関わっている方には、ドキーッとする一言二言、あったんじゃないでしょうか?
指出さんの著書「ぼくらは地方で幸せを見つける」は、人口増加や経済効果重視の観光化ではなく、若い世代が中心になったユニークな活動で注目を集める地域を紹介。これからの地域おこしや価値観の変化についても、独自の視点で提言しています。
その著書の中でも、総務省が大注目、国策としても動き出そうとしている新しい概念が「関係人口」。観光以上・移住未満の温度感で、その地域に興味関心があるからやってくる、地元の取り組みに参加してくれる来訪者の数を定義しています。
この関係人口が、地域を元気にする原動力の一つになるのでは?と今、注目を集めているそう。
観光目的でなく、その地域の取り組みに何らかの価値・面白さを感じるから、わざわざやってきて参加する…確かに基山町にもそんな人が増えると、地元民も何だか嬉しいし、もっともっと町に活気が出そうな気がしてきます。
ここからは僭越ながら私が、基山町のローカルメディアとして生まれたばかりの大字基山を編集している立場として、思ったことを。
大字基山は実は、基山町の「魅力」を発信しようと始めたメディアではありません。理由はもっと切実で、私たちが基山町で「暮らす」ため。もっと言ってしまえば、「生きていく」ためです。
編集部のメンバーはご存知の通り、生粋の町民というわけではありません。何かしらのきっかけで、ご縁で、基山町に住むことになった私たち。
県境の小さな町だからこそ、行政区外の近郊に生活圏の一部が依存し、いわゆる「田舎」だからこそ、具体的な生活情報がインターネット上でなかなか見つからない。そこに歯がゆさを感じて、自分たちでもできることがあるのではないか?とメンバーが集まり、「大字基山」として走り出しました。
一方で移住してきて日の浅い住民である私たちは、基山町の「住む場所」としての魅力に、すでに気づいています。基山町に魅力があるのは当たり前。だから前向きに、「暮らす」ことを考えていると言ってもいいかもしれません。
その点で、基山町の魅力発信…内向きの視点で中の人が面白がりながら情報を編集して発信するというローカルニッチなメディアとして、大字基山の可能性に気づくことができました。そしてそのずっと先に、基山町の「関係人口」を増やすという大いなる野望が横たわっている…のかも?
大字基山がスタートしてもうすぐ3ヶ月。
「編集」の難しさに悩みながらも、しっかり現地取材して情報元として信頼いただける、そして町内外の方に面白がっていただける内向きメディアを目指して、これからも活動を続けていこうと思います。