基山町には個性豊かな保育園・幼稚園が合わせて6園あります。
大字基山では未就園児たちの新年度入所・入園に向けて、町内の6園全てに潜入取材する特集企画を敢行中です。
第3弾となる今回は、基山町のもうひとつの認可保育園、たんぽぽ保育園を取材してきました。
社会福祉法人の基山福祉会によって1982年に開園。福岡モンテッソーリ教育研究会の創立にも関わるなど、町内で唯一、開園初期からモンテッソーリ教育を取り入れている私立の保育園です。
モンテッソーリ教育の基本は、「子どもは、自らを成長・発達させる力をもって生まれてくる。 大人(親や教師)は、その要求を汲み取り、自由を保障し、子どもたちの自発的な活動を援助する存在に徹しなければならない」という考え方にあります。
モンテッソーリ教育の目的はそれぞれの発達段階にある子どもを援助し、「自立していて、有能で、責任感と他人への思いやりがあり、生涯学びつづける姿勢を持った人間に育てる」ことです。
※プライバシー・セキュリティ面への配慮から、園内施設の一部のみをご紹介しています。より詳しい情報は保育園まで直接お問い合わせ・ご確認ください。
まずは写真で、保育園の普段の様子からご覧ください。撮影日はあいにくの曇り空…しかし建て替えから2年たつという新しい園舎は、とてもフォトジェニックでした!
こちらが正面玄関。一般車両は入ることができません。
駐車場は、保育園の前の通りをまっすぐ、およそ150mほど離れた場所にあります。園の前にも車を数台停めるスペースは確保されていますが、基本的に関係者はこちらに車両を停めて、園まで歩いて行くことになるようです。
グラウンドは全面芝生でふかふか!実は普段から園児たちは素足で活動しており、園庭から園舎まで靴を履くことなく行き来する生活をしているそう。遊具はグラウンド奥に配置されており、機関車を模したものもありました。砂場もしっかり確保されています。
これが新しい園舎の外観です。鉄筋コンクリート造2階建てで、2階の教室からも直接グラウンドに出入りができるようになっていました。
たんぽぽ保育園は、無農薬玄米、無化学調味料、天然素材にこだわった給食が特色のひとつ。出汁から丁寧に取り、おやつには必ずフルーツと、手作りの蒸しパンやバナナケーキなどオリジナルレシピも豊富だそう。アレルギーに関しても対応しており、園で除去食を作っています。小麦アレルギーの子には米粉パンを提供しているそうですよ。乳幼児のミルクは、自宅で使っているものを園で購入するそうなので、安心ですね。
2階に向かう階段裏は吹き抜けになっていて、その天井は「たんぽぽ」の黄色!図書コーナーとして、絵本と子どもたちが自由に読めるように椅子とテーブルが配置されていました。狭いところが好きな子にはたまらない、秘密のお部屋も。落ち着く空間です。
たんぽぽ保育園は定員140名、全部で7クラスという規模感。園舎内の廊下は突き当りが窓になるように教室が配置されているようで、明るい印象を抱きました。
園舎内を歩いていてパッと目を引くのが、各教室の入り口にかけられたルームプレート。クラスの名前を抽象的なデザインのステンドグラスが表現しています。実はこれ、園長先生自らがデザインして、基山町のステンドグラス工房「アトリエ石田」に制作を依頼したものなんだとか!センス溢れる園舎の中でも、さすが地元アーティストとのコラボレーション、群を抜いておしゃれで粋に感じます。
モンテッソーリ教育は、縦割り保育が基本。たんぽぽ保育園では、3〜5歳の子どもたちが一緒の教室で1日を過ごします。2階の教室にはグラウンドへ続く通路としてベランダがあり、教室内に手洗い場がありました。各教室には吹き抜け状の天窓も設けられており、その教室のイメージカラーがチラリと見える遊び心も。
こちらは、0〜1歳児クラスの様子。お昼寝終わりのおやつの時間にお邪魔しました。すっきりしていて、ひろびろ!
ここまで園内の様子を紹介してきましたが、教室にいわゆる「おもちゃ」が見当たらない…と気づかれた方もいるのでは?
モンテッソーリ教育では特色のひとつとして、「感覚教育」を大切にしています。具体的には、視覚・触覚・聴覚・味覚といった本来生まれ持った感覚を育てるために「感覚教具」で遊ぶ、ということだそう。なんだか難しく聞こえるかもしれませんが、実際におもちゃ…「感覚教具」を手に取ってみると、その意図するところが分かるかと思います。
例えば幼児クラスにある「階段」。歩行訓練のため、教室の一区画に置かれています。これもモンテッソーリ教育では定番の教具なんだそう。
感覚教具以外にも、モンテッソーリ教育は「お仕事」という、ボタンの練習や縫い物の練習、ハサミの使い方など、日常生活の練習を子どもたちの自主性に任せる時間があります。
トイレの床はタイルではなく、廊下や教室の床材と同じ…スリッパもありません!園児たちは素足で生活をする…とお伝えしましたが、それはトイレも同様。トイレスペースの奥にはシャワーコーナーもあり、清潔感のある空間でした。
園児の1日のスケジュールはこんな感じ。全年齢を対象に、午前中にモンテッソーリ教育のお仕事の時間が設けられています。
平成29年度の年間行事予定です。お泊まり会はありませんが、年長さんになると夏に「夕涼み会」があるそうです。また「ハロウィンパーティー」は今年度初めて企画されたイベント、とのこと!電車など公共交通機関を使って、遠足に出かけることもあるそうですよ。
保育園のしおりと、平成29年度の入園の手引き。
手引きから一部抜粋。他にも、月刊購読絵本の料金(400円前後)や入園する前に準備するもの、毎日持ってくるものが年齢別に、イラストで可愛らしく紹介されていました。
実はご家族で運営されている、たんぽぽ保育園。2017年現在の園についてさらに詳しく、園長の楢崎圭介先生と主任の楢崎チエ先生にお話をうかがってきました。前園長でもある、理事長の楢崎敏實先生にも同席いただき、みなさん苗字が同じ…ということで、今回のインタビューではお三方を肩書きでお呼びしています。
——モンテッソーリ教育といえば、最近では将棋の藤井聡太4段が通っていた幼稚園が取り入れていたことで話題になりましたね!
「たんぽぽ保育園では、大人が子どもに教えすぎないことを心がけています。子どもたちは、先生や年長の子の姿を見て自然と学ぶものですから。モンテッソーリ教育は普段の生活で、自分でやりたいことをやる・選ぶという子どもの自主性を重んじます。そして、何もやらない・選ばない、という自由もあります」(主任)
「モンテッソーリ教育では本人が納得するまで、大人が邪魔をしないことを推奨しています。その子の個性にあった対応を周りの大人が心がけるから、藤井4段のような集中力のある卒園児が出てくるのかもしれません。他にもスティーブ・ジョブスとかイギリス王室のウィリアム王子とか…」(理事長)
「本当は、大人が子どもを邪魔せず見守る時間をもっともっと確保したいなぁと思っています。お昼寝の時間や帰宅時間を考えると、なかなか難しい事情もあるのですが。それから、縦割り保育も特色の1つですね」(園長)
——たんぽぽ保育園では、具体的にどのような教育に力を注がれているんでしょうか。
「お仕事の時間を午前中、1−2時間ほどもうけています。縦割り保育の時間なので、年長の子どもたちのお仕事の様子を見た年少の子どもたちが向上心を持って取り組みます。2歳の子たちもボタンの開け閉めが上手になりますし、毛糸針を使ったお裁縫ができたり、ハサミの使い方なんかも上手ですね」(主任)
「感覚教具で子どもたちの五感の発達を促す他に、大まかに言語、算数、文化の分野について学ぶ機会をもうけています。言語に関しては、卒園までに読み書きができるようになります。算数は、1〜10の数字の概念を身につけてから、年中さんで4桁の足し算の活動をする子もいますよ」(園長)
——急に4桁の算数から始めるんですか!?
「教具を使うので、具体的に数の概念が分かるようになります。順序だった環境があるので、掛け算割り算への導入も無理なくおこなえるんです」(園長)
「それから文化について…これは地球儀や地図パズル、国旗、動物や鳥の名前など、いわゆる地理や生物、何より最初に地球の成り立ちを学びます。例えばタライに水を張って紙吹雪を散らしながら水面を混ぜると、自然と紙吹雪がタライ中心部に集まってきますよね。こうやって塵が集まって宇宙に星が誕生したんだよ、とお話ししながら、具体から抽象へ、全体像から細部へと学びを深めていくのがモンテッソーリの教育です」(園長)
——あえてスケールの大きい世界から、子どもたちの学びが始まるんですね…具体例の示し方がなんだか目から鱗です。
「モンテッソーリ教育は哲学のようなもので…一言でこれ!と解説できるものではないのですが、理論的思考を大切にする教育でもあります。他にも外部の先生による体育や絵画、音楽の時間、外国人講師による英語のカリキュラムなどももうけています」(園長)
——モンテッソーリ教育を受けた卒園児の話が冒頭に出ましたが、たんぽぽ保育園の卒園児はどんな子が多いと思われますか?
「縦割り保育なので、周りのお友達は36ヶ月の年齢層の幅があります。そのため、個人の得意不得意が目立たず、子どもたちがお互いに助け合う仕組みが自然とできます。給食配膳は自分たちでやるんですが、他の子どものお手伝いやフォローができる子が多いように思いますね」(園長)
「平和、はモンテッソーリの理念でもあります。縦割り保育によってお互いが面倒を見合うことで、競争心が薄れ、優しい子が多くなるんじゃないでしょうか」(主任)
——最後に、保護者会の活動についても教えてください。
「父母の会があり、参加したい方に手を上げていただいて…という感じです。特に大きなイベントでは父母の会主催の夏祭りがあり、出店など当日開催まで準備いただいていますね」(主任)
近年、育児雑誌にも特集が組まれたりと注目されつつあるモンテッソーリ教育。卒園児として著名人がクローズアップされるなど、基山町でも気になってる方が多いのではないでしょうか。
たんぽぽ保育園では開園してからモンテッソーリ教育についてコツコツと、当時の先生方で勉強されて、1986年から本格的に導入するに至ったとのこと。指定されている感覚教具やお仕事道具についても少しずつ充実させながら、今でも大切に使い続けられています。
先生方のお話を聞くにつれ、新しく生まれ変わった園舎に息づく美学そのものが、モンテッソーリの理念に通じるのかなと思ったり。取材のために2時間ほどの滞在でしたが、モンテッソーリ教育の理念と美学を感じることができました。