近所の誰かの好きなもの。
知らない誰かの大切なもの。
…それはきっと私が、あなたが、手に取ってみたくなる「逸品」。
基山町民・佐賀県民がこよなく愛する・注目するIPPIN(逸品)を取り上げる、気まぐれ特集企画。
歴代の天皇が即位後に必ず行う皇室行事「大嘗祭(だいじょうさい)」のために、令和元年、基山町から納められた「お米」を取材しました。
大嘗祭は、新しい元号になると必ず行われる、古来からの宮中行事。
毎年11月に国と国民の安寧や五穀豊穣を祈って行われる宮中祭祀「新嘗祭(にいなめさい)」を即位後、初めて大規模に行うもので、皇位継承に伴う一世に一度の重要な儀式とされています。
この時、全都道府県から「庭積(にわづみ)の机代物(つくえしろもの)」として米と特産品が、宮内庁に納められます。特産品は5品目までという決まりがあり、各自治体がみずから選んで届け出ます。
令和の大嘗祭に佐賀県から納められたのは、米の他にレンコン、ミカン、茶、キュウリ、海苔の5品目。その「米」が、今年、基山町で地元小学生が田植えし収穫を行った「夢しずく」です。
もともと基山町の小学校では、小学5年生になると必ず稲作体験が行われています。地元の農業関係者の指導を受けながら、学習田でもち米を田植えして収穫、餅つきまでを体験する…という授業ですが、大嘗祭への米の納入が決まった2019年は特別に佐賀米を育てることになったんだそう。
2019年秋、地元の農業委員会の指導を受けながら子どもたちが丁寧に稲刈りした米は、基山町産業振興課の担当者によってさらに綺麗な米粒のみ選りすぐられ、精米1.5kgが宮内庁に納められました。
宮内庁に届けられた、子どもたちの収穫の喜びが込められた「夢しずく」。その米1.5kgが入った箱を見た大嘗祭担当者は、その完成度にちょっとびっくりしたかもしれません。
基山町の担当者によると、米を収める箱の素材や形状には「華美過ぎない清浄なもの」という以外、特に決まりがないんだそう。そこで過去の事例を調べながら思いついたのが、「お米だけじゃなくて、箱も町内の人の手で完成できるのでは?」ということ。
基山町の子どもたち手作りのお米は、町内職人のしっかりとした手仕事による「桐箱」に収められることになりました。
箱作りを担当したのは、建具を専門にする長野木工所。玉手箱をイメージしたという形状に、しっとりとしたツヤ感のある木肌は丁寧なろう引き加工によるもの。蓋の開け閉めも柔らかな印象で、随所に並みならぬこだわりを感じます。
実は、長野木工所の先代も40年ほど前に皇室献上品のために桐箱を作った事実があるらしく、「オヤジには負けとられん!」と今回、特に張り切って手がけられたんだそう。
箱に納めるための白い袋と紫色の風呂敷もまた、地元職人による手作り。基山職人の会の一員でもあるハンドメイドショップTSUKURUが担当し、箱のイメージと形状にぴったり合わせた布小物が完成しています。
基山町の老若男女が最初から最後まで手作りにこだわった結果、至極の逸品となった今回の佐賀県産米「夢しずく」。
令和の大嘗祭は、2019年11月14日から15日にかけて「大嘗宮(だいじょうきゅう)の儀」、16日と18日に「大饗(だいきょう)の儀」が行われます。
佐賀県産米「夢しずく」は、県内のスーパーや通信販売などで取り扱われています。桐箱および布小物はオーダーメイド品のため、非売品であり、商品化されていません。